2024.10.07

世界初!殺虫剤抵抗性2万倍 スーパートコジラミのゲノム解読に成功
トコジラミ対策商品の開発を推進
~広島大学と共同研究~

フマキラー株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大下一明)は、広島大学大学院統合生命科学研究科(広島県東広島市、学長:越智光夫)坊農秀雅(ぼうのう ひでまさ)教授、栂浩平(とが こうへい)研究員と共同で、トコジラミ(Cimex lectularius)のゲノム解読に取り組み、世界で初めて抵抗性トコジラミ(別名スーパートコジラミ)のゲノム解読に成功しました。
本研究成果は、MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)社の昆虫学専門学誌“Insects” 電子版に、「トコジラミ(Cimex lectularius)の殺虫剤抵抗性遺伝子変異のゲノムワイドな探索」の表題で2024年9月24日に掲載されました。

近年、過去の継続した殺虫剤の使用により、殺虫剤に対して抵抗性を獲得した(殺虫剤が効きにくい)スーパートコジラミの存在が大きな問題となっています。さらに、トコジラミの被害件数は年々増加傾向にあり、ホテルなどの宿泊施設や一般住宅にも生息域が広がりつつあります。一般的な殺虫剤による駆除は困難であり、またその生態や生息環境から専門駆除業者による処置が必要となる場合もあります。
そこで当社と広島大学は、スーパートコジラミの殺虫剤抵抗性の要因をゲノム解読によって解明することで、効果的かつ効率的な殺虫剤の開発につなげることを目的に研究を開始しました。

カメムシ目トコジラミ科に属するトコジラミ(Cimex lectularius)は、別名ナンキンムシとも呼ばれる、体長5-8 mm(成虫)程の虫です。昼間は壁や寝具の隙間などに潜み、夜になると生息場所から這い出て、孵化直後の幼虫から成虫まで雄雌問わず吸血行動を行います。吸血部分は非常に強いかゆみを伴った紅斑が複数生じる場合が多く、昼間は目のつきにくいところに潜んでいるため、初めて刺された人は原因がわかりづらく、強いかゆみと共に精神的な影響を受けることもあります。

今回の研究結果から明らかになった変異を持つ遺伝子は、殺虫剤への抵抗性の発達に関係する可能性があります。これらの遺伝子の研究を進めることで、スーパートコジラミを駆除できる商品の開発につながることが期待され、また、他の殺虫剤抵抗性の系統でも調査することで、今回明らかになった変異を基に、殺虫剤抵抗性の予測に活用できることが期待されます。

フマキラーは、「ひとの命を守る。ひとの暮らしを守る。ひとを育む環境を守る。」という経営理念のもと、社会に役立つ商品開発に取り組んでまいります

【研究内容】 

当社で累代飼育しているトコジラミの殺虫剤への感受性系統と抵抗性系統を研究対象としました。抵抗性系統はピレスロイド系殺虫剤であるペルメトリンに対して約20,000倍の抵抗性を示すスーパートコジラミです。PacBio社のDNAシーケンサーを利用したロングリードシーケンシングにより、両系統のゲノム解読を行った結果、感受性系統は644Mb、抵抗性系統は614Mbのゲノムサイズのゲノム配列を得られました。続いて、得られたゲノムから遺伝子領域を探索したところ、両系統とも13,000ほどの遺伝子が存在することがわかりました。

これらの遺伝子のアミノ酸配列の比較により、抵抗性系統が特異的に変異を持つ遺伝子を探索したところ、599遺伝子が見つかりました。その中には一般的に殺虫剤抵抗性に寄与することが知られている電位依存性ナトリウムチャネルやP450、トランスポーターなどの遺伝子が含まれていました。ほかにもDNA修復やリソソーム内で働く酵素など、殺虫剤に応答して発現が変化することが知られる遺伝子が多く含まれていました。また、飢餓状態になると糖の取り込みを促進するトランスポーター遺伝子も含まれていました。これらの分子機能が、抵抗性の発達に重要なことが示唆されます。これまで報告されていない変異を多く発見した本研究は、抵抗性系統の全ゲノム解読の重要性を示すものとなりました。

トコジラミの拡大写真

<論文情報>
・著者:Kouhei Toga1),2), Fumiko Kimoto3), Hiroki Fujii3) and Hidemasa Bono1),2),*
*Corresponding author
1) 広島大学大学院統合生命科学研究科
2) 広島大学ゲノム編集イノベーションセンター
3) フマキラー株式会社
・論文タイトル:Genome-wide Search for Gene Mutations likely Conferring Insecticide Resistance in the Common Bed Bug, Cimex lectularius.
・掲載誌:Insects
・DOI: 10.3390/insects15100737

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